葛西薫さんの個展を見てきた

昨日、札幌芸術の森の工芸館で、札幌出身のグラフィックデザイナー葛西薫さんの個展『葛西薫 1968:TIME TUNNEL!』を見てきた。
一ヶ月余りに亘って開かれていながら行けたのは最終日になってしまったのだけど、これは本当に価値のある個展だった。

葛西さんの一番長く、また一番知られている仕事は、サントリーのウーロン茶だ。
発売当初から現在に至るまで、またそこから生まれた黒ウーロン茶の広告も合わせて、一貫して手がけて来た。
発売された1981年(昭和56年)は、まだ水やお茶にお金を出して買うという概念がほとんどなかった時代。中国で飲まれて来たということを、ストレートでありながら独自の空気感で、CMと雑誌などの広告で立体的に伝える手法はずっと変わっていない。展示においても4つの壁面のまるまる一つを使って、30年に及ぶ歴史をたどっていた。僕も初期のCMや「ウーロン茶はサントリーのこと」というコピーは憶えていたし、そこで流されていたCMの多くも見覚えのあるものばかりだった。

高校を出て上京し、印刷会社の社内デザイナーからキャリアを始めた葛西さん。最初期に手がけた家具店のチラシやさまざまなプレゼンの為の試作・習作にはくすぶりながらもほとばしるエネルギーを感じ、初めて手がけた新聞の小さな広告、やがてサントリー系の広告会社サン・アドに移籍し、やはり小さな広告を振り出しにサントリーをはじめソニー、NTTデータなどの他社、さらに演劇や映画(是枝裕和監督の『誰も知らない』のアートワークも葛西さんの手による)…少しずつサイズもテーマも大きくなっていく広告群、そして振り返ると床一面に広げられた50枚近いポスターの数々。
そのすべてを貫いているのが、文字・写真・イラストなどの絶妙な空間と空気感だった。
空け過ぎても、詰め過ぎても、相手の心にはストンと伝わらない。デザイナーの仕事の多くはクライアントの要望を受けそれに叶うようなものを作ることだが、そこにデザインができることを付け加え提案することこそが人の心に届くものを生み出す。それを愚直なまでに貫く姿が伝わってくるのだった。

ポスターの海原から回れ右すると、一角にたくさんのファイルがあった。
これらは今までの広告や作品を作る為のコンテや資料、メモがプロジェクトごとに綴じられていた。
もちろん直筆をはじめ葛西さんの手に触れたものばかりだ。鳥肌の立つ思いでそのページをめくれば、やはりこのコンテにも絶妙な余白があったのだ。
きっと葛西さんは、ものを作り考える時にも、詰めすぎない、引きすぎない独特な感覚を持っているのだろう。よく見、聴き、そしてひとつのメッセージに収斂する多様な答えを導き出していく……その過程をじっくりと見ることができた。

何より思ったのは、文字や写真、絵などへの畏敬の念だった。
中でも文字へのこだわりは、シンプルな絵づくりだからこそそれが作品全体を左右するほどの存在になっていた。
僕もデザインをやらせていただくことが多い。文字好き、フォント好きでは僕なりのこだわりをいつも貫いているつもりだが、すべては人から人へと想いをつなげていく…そこから着想し創り出していくということを、再確認させられた。

葛西さんの作品の多くは商業作品であり、気がつくと僕たちの生活のそこにあるものだ。
だからこそ、人々の心にそっと寄り添い、そしてウーロン茶のかつての広告のようにスッと想い出された時にも新たなメッセージとなってそこにあるものを生み出そうとしてきた歴史なのかもしれない。

創作活動、ものを作ることに携わっている人として、その凛とした、真摯な姿勢に強く心を動かされ、そして勇気づけられた。

■『葛西薫 1968:TIME TUNNEL!』
2010/4/24(土)〜6/6(日) 会場…札幌芸術の森 工芸館1F展示ホール
http://www.artpark.or.jp/programs/craft/


You may also like...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


This blog is kept spam free by WP-SpamFree.