『ストロベリーショートケイクス』

510f5833.jpg5年前、『tokyo.sora』という映画に出会った。
東京で一人暮らしをする4人の女のコ……女性というよりも「女のコ」と呼びたい、ごくごくふつうの、だけど心の中に何かしらの影を抱いているひとりひとりの日常の物語だった。
そんな4本の細い線が一瞬近づき交わる瞬間を描くがために、丹念に、日常を端折らずに積み重ね物語にしていく石川寛監督のスタイルは、僕の中で本当に新鮮なものだったし、僕の写真のつくりかたととても似ていると感じた。
音楽もセリフも少ない。そこにある空気に、4人の主人公のいる空間に、多くを語らせている。だからこそ、いとおしく、少し痛くて、異性の眼で見たものであっても、僕の、僕たちの物語だと思うことができたのだ。今も僕のベストムービーである。

『ストロベリーショートケイクス』に、同じ想いを重ねながら僕は見た。
『blue』に続く、魚喃キリコ原作漫画の映画化。彼女の、背景を極力排し繊細な線で描かれた作品には、余白が多い。そこには、若い女性……というよりも、若者そのものの儚さや一縷の希望が垣間見える。

この物語も、20代の4人の女性が主人公だ。

(続きはネタバレがあります……)


目下の目標は”とにかく恋がしたい”と言ってはばからない、夢見がちなフリーター。
とあるデリヘルの指名No.1だが、かつての学校の同期に叶わぬ片思い(その彼に会う時にはジャージにメガネ!)をしているデリヘル嬢。
常に恋をしていないと生きていられないかのような、恋愛依存型のOL。
超売れっ子でストイックなまでに制作に打ち込み、それがゆえ拒食症で口にしたものをすべて吐いてしまうイラストレーター。
フリーター(電話番)とデリヘル嬢、OLとイラストレーター。前者は仕事場を、後者は同郷の幼なじみで今はマンションを共にしている。
4人は例えて言うなら、パズルのピースがひとつだけ足りないのだ。決して不幸ではないのだが、どこかに虚無感や焦燥感を持って生きている。
フリーターは路傍で見つけた小石を”神様”にして、毎夜「彼氏ができますように」と祈る。そんなふうに、何かにすがりたい想いも、この4人は持っている。ただ、すがるものというのは概して脆い。しがみつき、そして崩れる体験を4人はそれぞれに体験する。
だからこそ、いちばん近くにいる人のなにげないひとことや仕草に救われるということをも思い知る。この物語もまた、女性の視点で描かれているとはいえ、僕も強く感じるものがある。

いちばん衝撃的だった、イラストレーター・塔子の日常。黙々とキャンバスに向かい、何度もそれを破り捨て(隅っこには鉛筆で「吐きたい」「みんな死ねばいいのに」と殴り書きが)、食べ、そしてトイレで吐くシーンが現れ、そして何故か同居人の日記(彼氏とのラブラブ日記である)を盗み読みながら、ひとりで”して”しまう。
そしてようやく生まれた小説の表紙の原画を編集者に紛失され、誠意のない態度にまた吐いて…。
ふたつの(3つの?)意味で”吐き出し続ける”ことでアイデンティティを保たねばならない塔子は、絶対他人に心の弱さを見せない。同居人のOLにさえ。
だが最後にあるきっかけで同居人に吐く姿を見られた塔子は、初めて泣く。やさしく抱きしめる同居人。彼女も失恋し、痛手をひきずっていたのだ。

4人は4通りの涙を流すことによって、どこかに朧げながら希望を見いだす。
具体的にどうなったかまでは描かれていない。そこに、これを僕たちの物語たらしめる理由があるのだ。
やはり音楽は極限までなく、セリフも決して多くない。4人の主人公のいる空間が、余白が語っている。
決して不幸せじゃないけど、満たされてはいない。きっと同じ想いを、特に僕たちの世代は持っている。
この正月、朝日新聞が連載記事でさまざまな荒波にもまれる25〜35歳の世代を「ロストジェネレーション」と名付けたが、『tokyo.sora』も『ストロベリー〜』も、そんな僕たちの物語なのである。

満たされてはいないけれど、その先はちゃんと、あるのだ。
そう思いたいと、思う。

*フリーター役の池脇千鶴の現代っ子っぽさもよかったけど、塔子を演じた岩瀬塔子、迫真の演技で最近まれに見るものすごい女優さんだなと思ったら……なんと魚喃キリコご本人なのだそうだ。

■『ストロベリーショートケイクス』……札幌では蠍座で再上映=昨日(1/22)上映終了


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2 Responses

  1. はば より:

    私もこれキノで観ました。
    すごい考える内容で、
    あるようで、ないようで。
    普通ならみんなが共感できるけど何故か語られない部分をひしひしと感じれる映画でした。
    おもしろい。の一言です。

  2. sorami より:

    >はばさん
    僕はキノでの上映時忙しくて行けずじまいで、再上映してくださった蠍座さんには大感謝です。実は2回見に行きました。
    表層ではなく、深いところで共感するような……、女性から見た女の子の心理描写に特徴のある魚喃さんのテイストがよく出ていた作品でしたね(塔子を実はご本人が演じているからなおさら、なのかな)。
    この作品のスチール写真を撮ったのが、僕の好きな写真家のハービー・山口さんでして、パンフレットも素敵でした。ふだんモノクロのイメージが強い方なので、とても新鮮でしたね。

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