『アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶』

45ce3bd5.jpgおととしの3月、札幌に移って初めての個展『たちどまり、またあるき。』(於・宮田屋豊平店ギャラリー)に来てくださったある知人が、こう感想を言ってくださった。
『アンリ・カルティエ=ブレッソンのようだね』。

アンリ・カルティエ=ブレッソン。”決定的瞬間”で知られる写真家である。
世界中を旅した彼の許には必然のようにシャッターチャンスがやってきて、彼はそれをことごとくものにした。
僕は街を歩き、旅をして、ふと感じたものごとにカメラを向け撮っているだけですよ、と言った。すると彼は、『そこに意味があるんですよ』。
その当時あまりピンと来なかったその言葉が、最近実感として少しずつ分かるようになった来たように思う。

ブレッソン自らが語り、日本でもファンの多いエリオット・アーウィットなど友人たちの証言や、そして彼の膨大な仕事の中からセレクトされた作品がスクリーンを彩るドキュメンタリー映画が、札幌でも現在ようやく公開されている。
パリの彼の書斎で、身振り手振りを交えながら、とても90歳を越えたようには見えない元気な姿で、とにかくうれしそうに作品を手に語るブレッソン。
ポートレートも、街の光景も、そのひとつひとつに動的なエッセンスがある。いや、動いている。
彼の最も有名な作品に、「サン・ラザール駅裏」と題された一枚がある。水たまりを飛び越そうとして全然足らず、男の左かかとが水に着こうとしているその瞬間を写したもの。夏前にテレビ『美の巨人たち』でこのエピソードが取り上げられていたが、ブレッソンの頭の中には完璧な構図……、プリントが上がったときのイメージがすでにちゃんとあったのだという。

『写真は、眼と心と身体で照準を合わせて、撮ったらスッと消えるのさ』。
撮られる側に極力カメラの存在を感じさせないで、でもレンズの向こう側に誰よりも迫ろうとするブレッソン。間違いなく懐の深い人なんだろうと作品を見て勝手に思っていたのと全く同じ彼が、スクリーンの中で語り、笑い、好きなクラシックをリズムを取りながら聴いては『いい曲だろ?』と問いかける。
彼のような写真を撮りたいと、もちろん思った。でも、それ以上にこんな人に写真を撮られたい!と思った。think gardenのカウンターでコーヒーを飲んでいる僕、とか(笑)。

ブレッソンは3年前のこのインタビューで遺言を残したかのように、翌年・2004年の8月、95歳で永眠した。
彼は最後にこう語った。
『(自らの作品を前に)例えて言うならゲップのように(苦笑いするブレッソン)、不意に記憶が蘇ってくるんだ/写真はずっと死なない。僕が死んだ後も、生き続ける。』

そうなんだ。写真は、残っていく。
残したい、伝えたい。だから、撮る。だから、いま、僕の眼と心と身体とで、撮る。
僕は僕のスタイルで、これからもカメラと一緒に歩き、旅し、見つめ続けていけばいいんだ。
ブレッソンのひとことひとことが、そう思わせてくれる。とても僭越だけど。

あの時、『ブレッソンのようだね』と言ってもらったことは、その瞬間ももちろんうれしいことだったけど、たとえ僕が死ぬまでブレッソンの足元には決して及ばないかも知れなくとも、たくさんの方々のおかげでこうして作品と発表のフィールドを広げつつある今、改めて誇りに思うことである。

これまた僭越ながら言わせてもらえば、どこまでも気さくで、そしてどこまでも偉大な先輩。写真のチカラを信じた先輩。
僕も写真を撮る人として、ブレッソンのように、自らの信念に恥じないものを、一枚一枚重ねながら生み出していきたい、心からそう思う。

*『アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶』
 札幌ではシアターキノにて、22日(金)まで。11:30 / 20:05


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5 Responses

  1. あれ、soramiさん、キノにいた?
    小生も、きょう午後8時の回、見てたんですけど。

  2. 映画「アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶」

     20世紀を代表するフランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908−2004年)に、最晩年にインタビューしたドキュメンタリー映画「アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶」が、札幌・シアターキノで公開中なので、仕事の帰りに見てきた。
     撮影のさまたげにな…

  3. sorami より:

    >ヤナイさん
    きのう……つまり火曜日の夜の回でした。まる一日差ですな(笑)
    それにしても、たった一週間、モーニングとレイトだけってのがちょっともったいないです。
    ……というか、やはり夜にじっくり見たい映画ですね(じっくりという割には、72分という尺は、ロバート・キャパのドキュメンタリー映画もそれくらいだったけど、なんか中途半端って気もしないでもなかったですが……)。
    『写真は短刀の一刺し。映画は瞑想だ』。……なるほどねぇ。パリのエスプリの効いた言葉です。
    あ、パンフレットは手にされましたか!? 立派な写真集ですよ。

  4. パンフレット、手にしただけで買いませんでした。
    あの薄さで1000円はちょっと高いなあ、と感じて。

  5. sorami より:

    >ヤナイさん
    実は僕も値段が・・・なので昨日はじっくりロビーで読んだだけで買って来なかったのですが、買いに行きたいかも、です。
    でも洋書で写真集買った方がいいかも知れないなぁ。

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